卒業制作 中間発表 Tactical Fashion Design for Post-quarantine

2020年2月2日、SFCにて環境デザイン表彰の審査会があり、そこで行った卒業制作の中間発表の資料をここに公開する。

English Abstract
“Tactical Fashion Design for Post-quarantine” is a design fiction project to speculate the changing built environment in the Anthropocene. The climate change and the spread of the infectious disease causes the dramatic change in the man-made environment in recent years, as urban areas are changing into the extreme environment. In the future, globalization will increase the number of disasters, and the architecture and cities that humans have built up to now will turn on us. We, as people living in such extreme environments, should not expect strategic urban design, but rather to make our lives more physical and tactical in the future.As evidenced by the ever-increasing redevelopment of cities and the construction of high-rise condominiums, as the rise in population continues to increase, it is important to know how to live with the risk of natural disasters.Based on facts like the flood disaster in Musashi Kosugi, Tokyo and fiction like High-Rise by JG Ballard, this study speculates on future clothing life to survive a disaster city.

本研究の主題は、人新世におけるデザイン環境の変化である。この主題では、3つの重要なデザイン環境の変化に注目している。

それは、「都市から極限環境へ」という近年の人工環境の劇的な変化である。今後、気候変動で災害が増えて、人間が今まで建設してきた建築や都市が、逆に我々に牙を剝くのではないか、という仮説を本研究ではベースにしている。

そのような極限環境に住む生活者である我々は、戦略的な都市設計に期待するのではなく、自分たちの手で、より身体スケールで、戦術的に生活を作っていくことが今後重要なのではないか、というのがこの研究のテーマである。

ここでは、「津波に対してより大きな堤防を建てる」といった、土木による対処療法的な災害対策を<戦略>と呼ぶのに対し、水害を被りがちな荒川流域の民家において、水上に避難できるようにそれぞれの軒下にボートを準備するような、市民それぞれの手によるしたたかな生活の適応を<戦術>と呼んでいる。

わかりやすい例で言えば昨年、大型の台風19号が都心を直撃したときに、武蔵小杉の高層マンションではエレベーターが冠水して家から出られなくなったり、下水が逆流して街中がうんちまみれになった、という騒ぎがあった。

都市の再開発と高層マンションの建設がどんどん増えていることにも明らかなように、都市の高層化はこれからもどんどん進むなか、自然災害のリスクと寄り添って生きていく術が、より一層求められるようになると考えられる。

こうした超高層住宅とそこで起きるサバイバルの風景は、1975年に出版されたSF小説にすでに見られる。

JGバラードによる『ハイライズ』では、上下格差が原因でスラム化した高層マンションで、次第にサバイバルを強いられる男の姿が描かれる。

武蔵小杉のような事実と、『ハイライズ』のようなフィクションを前提にして、この研究では「デザインフィクション」という手法で、「災害都市をサバイバルするための、未来の衣生活」の推論を試みた。

「デザインフィクション」とは、紙上で空想の建築を夢想したペーパーアーキテクツのように、「いま・ここ」ではない別の世界のモノやサービスを設計するためのデザインの方法論を指す。

サイバーパンクの創始者のひとりであるブルース・スターリングによって提唱され、例えばDunne & Rabyたちの手でバイオや科学技術が前衛化した未来をテーマにした作品が作られている。

今回は、ここに図示したようなプロセスで研究を遂行した。

研究背景のリサーチ、ワークショップ、シナリオとプロダクトの試作を経て、大きく2つの成果物を製作し、主にこの2つについて発表する。

1つ目の成果物であるSFシナリオの概要はこちら。

主人公であるズーウーは壁面配達者と呼ばれる、いわばエクストリーム・ウーバーイーツの運び屋だ。

壁面配達者とは、超高層住宅<コンクリフ>に住む住民たちから依頼を受け、極限環境と化した東京において希少な、バッテリーや物資の配送を担う、架空の職業。

ズーウーの運ぶエネルギーや物資は、しばしばコンフリクト上空に住まう「電気窃盗者」と呼ばれる集団に狙われ、配達の最中にも攻防を繰り広げる。

電気窃盗者たちを裏から操る「建設者」という存在は、都市におけるタクティカルなサバイバーたちを完全に支配するために、太陽光発電を求めて都市のさらなる高層化を画策している。

この物語はつまり、

行き過ぎた建築の高層化への反省なしに際限なく戦略を推し進めようとする建設者と、それに対して、災害によって極限環境と化した都市を戦術的にサバイバルする壁面配達者・ズーウーの戦い

をフィクションを通して描くことで、「都市を戦術的に使う」とは何か、について思索することを目的としている。

実際に、壁面配達者のズーウーが着用している「極限環境生活者のためのタクティカル・サバイバルスーツ」を製作した。

実際に都市で壁面を登りつつ配達をしている様子。
吸盤を壁面に貼り付け、ロープに足をかけて、のぼっていく。

看板を岩壁と見立て、ロッククライミングのように都市をクライミングしている様子。

配達指定フロアに入っていく。

配達が終わって、帰っていく。

電気窃盗者たちから、逃げなければいけない。

避雷針も、登っていく。

休憩している。
100m以上ものぼるので疲れている。

屋上で、休憩している。

次の配達先の彼方を、見つめている。

今後の展望として、

・この世界での他の職業について考えていくことを通してフィクションをアップデートする

・情報環境との連動を前提とした機能を追加することで、技術面でも服を実装する

・壁面配達者を取材した架空のドキュメンタリーを映像として製作する

ことを目標に、今後もアップデートを続けていくつもりである。

以上。

付録:SFシナリオ全文 1/2
付録:SFシナリオ全文 2/2

--

--