災害都市と共に生きるための、未来の衣生活に関するデザインフィクション

Kotaro Sano
85 min readFeb 4, 2021

極限環境生活者のためのタクティカル・サバイバルスーツ

論文要旨

本研究は、人新世において劇的に変化する人工都市環境を、戦術的な想像力を使って生き延びるための衣生活を思索するデザインフィクションのプロジェクトである。近年、気候変動や感染症の蔓延により、都市部が極限環境へと変化し、人工環境が激変している。今後、グローバル化により自然災害・人的災害が増加し、これまで人間が築いてきた建築や都市が私たちに牙をむくことになるのではないかという仮説を本研究ではベースとしている。

都市の再開発や高層マンションの建設、人口増加が進む中で、自然災害のリスクとどう付き合っていくか、市民主導によるボトムアップの対策を前提として、そこで生き抜くために必要であろう衣服の設計を通して未来の都市生活を思索することを目的とする。

Abstract

“Tactical Fashion Design in Extreme Environment City” is a design fiction project to speculate the possible future of the fashion culture on changing built environment in the Anthropocene. The climate change and the spread of the infectious disease causes the dramatic change in the man-made environment in recent years, as urban areas are changing into the extreme environment. In the future, globalization will increase the number of disasters, and the architecture and cities that humans have built up to now will turn on us. We, as people living in such extreme environments, should not expect strategic urban design, but rather to make our lives more physical and tactical in the future.As evidenced by the ever-increasing redevelopment of cities and the construction of high-rise condominiums, as the rise in population continues to increase, it is important to know how to live with the risk of natural disasters.Based on facts like the flood disaster in Musashi Kosugi, Tokyo and fiction like High-Rise by JG Ballard, this study speculates on future clothing life to survive a disaster city.

目次

第1章 研究背景
1–1. 都市:トップダウン型の都市設計とボトムアップ型の戦術的介入
1–2. ファッション:デザインフィクションとしての衣服、身を守るための衣服
1–3. Evaluation:評価基準の設定と採点

第2章 研究目的

第3章 研究手法
3–1. Design Fiction
3–2. Annotated Portfolio

第4章 実践
4–1. Tactical Rising
4–2. Quarantine Surveillance

第5章 省察
5–1. 評価の設計
5–2. 評価の結果

第6章 展望

参考文献

謝辞

第1章 研究背景

2019年は東京が大型台風をはじめとする自然災害に襲われた年だった。そして2020年に入り、新型コロナウイルスという新たな生物学的災害に、人々は日々の生活のあらゆる面で被害を受けている。下水道が破裂し、駅が水浸しになる。暴風雨で鉄道のシステムがシャットダウンする。感染症のリスクで大学は閉鎖され、数少ない友人にも自由に会えない。開催が予定されていた展覧会が無期限延期され、作品も発表できない。

我々の生活は、いつ起こるかわからない災害と、自由のきかないコンクリートジャングルの中で常に隣り合わせで営まれていたことに気づく。

本プロジェクトは、人新世において劇的に変化する人工都市環境を、戦術的な想像力を使って生き延びるための衣生活を思索するデザインフィクションのプロジェクトである。

人新世という言葉がデザインや建築の議論の場で浸透し始めたのはほんの数年前からである。産業革命以後、多量の二酸化炭素を排出したり、核実験以後、放射能汚染を地球上に広げている人類の生産活動は、地球の環境に不可逆な影響を与え続けている。人間が活動することそのものが地球の環境を多大に改変していることは言うまでもない。そして気候変動や感染症の蔓延により、都市部が極限環境へと変化し、人工環境は激変している。

今後、グローバル化に伴う気候変動や災害の増加によって、人間が今まで生活の繁栄のために建設してきた都市や建築物が、逆に我々に牙を向くのではないか、という仮説を本プロジェクトではベースにしている。

そのような「極限環境」と化した都市に住む我々は、戦略的な都市設計に期待したり、今までのような屋内重視型の都市生活をベースとしたデザイン行為を行うのではなく、自分たちの手で、より身体スケールで、戦術的に生活を作っていくことが重要なのではないか、というのが本プロジェクトのテーマだ。都市の再開発や高層マンションの建設、人口増加が進む中で、自然災害のリスクとどう付き合っていくか、市民主導によるボトムアップの対策を前提として、そこで生き抜くために必要であろう衣服の設計を通して、未来の都市生活を思索することを目的とする。

1–1. 都市:トップダウン型の都市設計とボトムアップ型の戦術的介入
1–1–1. トップダウン・ノンフィクション
1–1–1–1. ジョルジュ・オスマンによる「パリ改造」

「パリ改造」は、19世紀、セーヌ県知事のジョルジュ・オスマンが実行したパリを中心とする都市改造計画である。

当時、フランスでは下水道や風呂の設備が住宅になく、また下水道がない住宅から排泄物を細くて風通しの悪い道に打ち棄てるなど、衛生環境が整備されていなかった。そのため、コレラがパリで大流行した原因も、この都市の設計によるところが多かった。

そこで、1853年から1870年までセーヌ県知事を務めたジョルジュ・オスマンは、古く細い街路を直線化したり、交通循環を容易にするといった方針で都市設計の大改造を行なった。

コレラという自然災害に対して、トップダウン的に都市設計から改造するこで疫病の蔓延を防いだ一例である。

加えて、この頃コレラの蔓延には都市設計の問題だけではなく、人々の下着の文化がなくかなり身体的に不衛生な状態が毎日続いていたことも原因の一つだと考えられている。コレラを経て下着を毎日洗濯して履くという文化や、古着の文化が花開き、ファッション史としてもコレラの流行と「パリ大改造」は大きなターニングポイントとなっている。

1–1–1–2. 東日本大震災後に建てられた新たな堤防

東日本大震災の津波到来時、岩手県陸前高田市には4mの堤防が建っていた。しかしながら陸前高田に実際に押し寄せた津波は4mをはるかに超える大きなものだったため、堤防の甲斐なく約二千人もの命が失われてしまった。

震災後、復興計画の一部として陸前高田市は海岸にこれまでの3倍の高さとなる12mの巨大堤防を建設し、来たる津波の到来に備えている。巨大な津波に対して、より巨大なトップダウンの対策を取っている代表的な一例といえる。

1–1–1–3. 首都圏外郭放水路

首都圏外郭放水路は、首都圏の洪水を防ぐために建設された地下の放水路である。周辺の河川が洪水となった場合、地下50m、全長6.3kmの放水路を使って江戸川に合流させる役割を持つ。中川・綾瀬川流域は大雨の度に浸水被害を繰り返してきた。この地域は土地が低く水が溜まりやすいお皿のような地形になっている。また周辺の川の勾配が緩やかなため、雨水が海まで流れにくいという特徴があり、大雨になるとなかなか水位が下がらない。さらに、首都圏で都市化が進み、降った雨が地中に染み込みにくくなったことが、洪水の発生を促進している。
首都圏外郭放水路は第18号水路・中川・倉松川・幸松川・大落古利根川・そして江戸川の6つの水路に接続されており、それぞれの地下に「調圧水槽」と呼ばれる貯水槽を設置し、それを全長6.3kmのトンネルで接続、最終的に江戸川に排水される構造を持っている。これも巨大堤防と同じく、人間の制御しきれない自然災害に対してトップダウン型で建設された巨大な施設で対策を打っている一例と言える。

1–1–2. ボトムアップ・ノンフィクション
1–1–2–1. シチュアシオニスト・インターナショナル

1950年代に活動したアンテルナシオナル・シチュアシオニストは、1950年代後半から1970年代前半にかけてパリなどの欧州の諸都市に広がったアバンギャルドな文化的・政治的運動で、大量消費やイメージが支配する既存の社会体制に反発した試みである。

彼らはダダをはじめとする20世紀の前衛芸術から派生している。

彼らは、「漂流」や「心理地理学」と言う言葉をキーワードに、トップダウン型につくられた都市を読み替え、歴史的・宗教的な建造物を否定し、民衆的な通りや界隈を評価した。

1–1–2–2. タクティカルアーバニズム

タクティカルアーバニズムは、デザイナーや建築家主導の現代の都市計画によって生じる問題に対して、民間レベルで小さなアクションを起こし、地方自治体や省庁を巻き込みつつ、長期的には法律や都市計画への変革を誘導するための活動である。

アンリ・ルフェーブルの思想やシチュアシオニストたちの実践を前提としながら、ニューアーバニズムと同様、市場的合理性一辺倒の都市開発、都市形態に対する批判的な思想を基調とするが、その活動はボトムアップ型のローコストでラピッドな、身体スケールでの小さなアクションという点が重要である。タクティカルアーバニズムは2000年代後半のアメリカ西海岸発祥の活動であるが、その事例をまとめた書籍や具体的な実践方法、ツール制作のためのデータまでもが積極的にオープンソース化されていることから、全世界的にもその活動が流布している。

1–1–2–3. 市民によるボトムアップ型の災害対策
1–1–2–3–1. 自然災害伝承碑

先の東日本大震災で、太平洋沿岸の地域は津波によって大きな被害を受けた。東北地方の太平洋沿岸の津波被害は頻繁に起こっており、貞観地震の際にも津波の被害を受けた地域では、その被害への教訓を語り継ぐために、津波の被害が大きかった地域と少なかった地域の境界線を明確にし、そこから下へ住宅を構えると被害を受けやすいことを示すために、石碑に刻むという手法をとっている。

東北地方では、明治以降の約150年間に限っても、明治三陸地震津波、昭和三陸地震津波及びチリ地震津波など、多くの被害を及ぼした地震・津波があった。これらの津波を後世に残すべく、多くの津波石碑が各地に建てられている。これら3大津波で残された石碑は、東北三県で約300基とされている。

先ほどの巨大堤防に対して、「言い伝え」などの市民によるしたたかな生活の適応で災害に対して身を守っている一例と言える。

1–1–2–3–2. 上げ船

荒川流域では、川の氾濫により水害を受ける地域が多い。

埼玉県比企郡川島町に観られる一部地域では、洪水が起こって水位が上がり避難できなくなった際のために、納屋の屋根裏に船を設置して、家庭単位で船を使って生き延びられるように伝統的に対策するという手法がとられている。

この伝統的な手法の背景には、1910(明治43)年の洪水がある。川島町内各地で破堤し壊滅的な被害を受けた。その惨状に明治天皇からの下賜見舞金があり、その見舞金で洪水時の救助・運搬用の上げ舟を造った地域もあった。記録では伊草村4艘、三保谷村12艘、八ツ保村8艘が建造され、八ツ保地区の下八ツ林薬師堂に一部現存していると言われている。

この例も同様、市民が語り継ぐ形で、災害対策を日常的に実践しているという点で、ボトムアップ型の市民による災害対策の一例だと捉えられる。

1–1–3. トップダウン・フィクション
1–1–3–1. A Walking City by Archigram

『A Walking City』はアーキグラムのメンバーであるロン・ヘロンによる1964年に発表されたプロジェクトである。

大型旅客船のような形状をした巨大な集合住宅に虫のような足がついて、丸ごと移動していくという都市像を夢想した、ペーパーアーキテクツのプロジェクトである。

近代都市計画は、トップダウン型の建築設計と科学技術によって人々の生活の分節化を進め、管理のしやすい形式を整備していった。1960年代は宇宙開発の時代であった。冷戦構造のなかで二つの巨大な国家が衝突し、まさに両者が技術でしのぎを削り合うようなかたちで宇宙開発は展開したが、そのはざまにアーキグラムは登場した。テクノロジーは権力と結びついていたが、アーキグラムはそれを転用して、技術のイメージを反文化、すなわちカウンターカルチャーのエネルギーに結びつけ流動させていった。彼らの作品は、そのほとんどがドローイングやコラージュで構成されており、実際に施工されたものはほとんどなくフィクション的な手法をとって、建築家らによるトップダウン的な都市設計ではありながらも、近代建築の規範からの逸脱を狙っていった。

1–1–3–2. United Micro Kingdoms by Dunne and Raby

『United Micro Kingdoms』(以下、UMK)は、当時イギリス・ロイヤルカレッジオブアートで教鞭を執っていたAnthony Dunne とFiona Rabyによる、イギリスの人々の未来の暮らしの可能態を描いたスペキュラティヴ・デザインのプロジェクトである。

UMKはイングランドを「Digitarian」「The Communo-nuclearist」「The Anarcho-evolutionists」「Bioliberals」という4つの自給自足形態を持つ郡に分け、それぞれの政府やライフスタイル、経済を思索する。

本作では実際に人体模型や自動車のモックアップ、地図が制作され、フィクションをベースに人々の暮らしの規範やそれを作る政府をトップダウン的に思索している。

1–1–4. ボトムアップ・フィクション
1–1–4–1. Death Stranding by Kojima Productions

『Death Stranding(デス・ストランディング)』は、2019年に公開されたKojima Productionsによるビデオゲームである。

デス・ストランディングという現象により崩壊した世界を舞台にしている。「帰還者」と呼ばれる、死亡しても黄泉還りが可能な特殊体質を持ったサム・ポーター・ブリッジズは、そんな災害後の世界で各地に孤立した人々のため、単独で物資を配達する仕事をしていた。

彼は崩壊した世界で人々のつながりを繋ぎ直し、アメリカを再建するために足で大陸を横断して配達をこなす。 彼岸と此岸を往来しながら、立ちはだかる様々な困難を越え、サムは配送をこなしながら災害によって崩壊した世界をつなぎ直す。

ここでは、ボトムアップ的に災害後の世界を作り直す主人公サムと、トップダウン的にデス・ストランディング=大量絶滅を引き起こして世界を一から再建しようとするアメリというキャラクターが対比的に描かれている。

1–1–4–2. Blame! by Tsutomu Nihei

『Blame!(ブラム!)』は1997年から2003年にかけて公開された、弐瓶勉によるSF漫画である。

都市の成長を管理していたコンピュータアルゴリズムが機能不全を起こし、人間のコントロールを失った結果、都市は「建設者」によって際限なく拡張され続けるかたわらアクセス権のない人間は住居を追われ、難民のようにシステムから隠れながら静かに絶滅を待つ暮らしを送っていた。

物語の主人公であるサイボーグのキリイは、人間の都市へのアクセスを回復するため、ネットワークに接続できる能力を持つ人間を探し、都市の自己防衛システムによる攻撃をかわしながら旅をする。

ここでは、ボトムアップ的にアルゴリズムによる支配後の世界を生き抜く人々の生活と主人公の旅、そしてそれと都市をアルゴリズムによってトップダウンに完全に支配しようとする建設者というキャラクターが対比的に描かれている。

1–2. ファッション:デザインフィクションとしての衣服、身を守るための衣服
1–2–1. ボトムアップ・ノンフィクション:都市から身を守る衣服
1–2–1–1. FINAL HOME by Kosuke Tsumura

『FINAL HOME(ファイナルホーム)』はファッションデザイナーの津村耕佑がディレクターを務める、1994年にスタートしたファッションブランドである。

「もし、災害や戦争、失業などで家をなくしてしまったとき、ファッションデザイナーである私は、どんな服を提案できるか、またその服は平和なときにはどんな姿をしているのか」という問いをテーマに、住宅を失ってしまった後の「最後の家」としての服を提案している。

上掲のナイロンコートは、寒さをしのぐために、ポケットに新聞紙を詰めれば防寒着に、あらかじめ非常食や医療キットを入れて災害時に着れば避難着になるなど個人の用途に適応できる服をコンセプトとしてつくられた。

災害に備えて個人レベルで対策をとるという点で、ボトムアップかつノンフィクションの災害対策の一例として取り上げた。

1–2–1–2. REFUGE WEAR INTERVENTION by Lucy Orta

Lucy Ortaは、1990年代初頭の第一次湾岸戦争に起因する深刻な景気後退の期間中に、テント型の衣服を制作するREFUGE WEAR INTERVENTION シリーズを制作した。

イラクおよびクルド難民が戦争地帯から逃げるための避難所と衣服および増加する人口の避難民のための避難所と衣服を求めてパリの路上で暮らすホームレスの若者たちが、遊牧民の個人的な快適さと移動性のために設計された、アノラックやバックパックにも変形するテント型の衣服を制作した。

これらのシリーズの制作物では、テントをベースに手足とフード、ポケットを組み込んでいる。人間工学に基づいた形状により、最小限の重要な身体空間が可能になり、閉所恐怖症の影響を排除するために胸の上に生地を持ち上げる伸縮式カーボンアーマチュアなどの最先端の設計革新を採用している。

彼女の作品は自然災害への直接的な対策のために制作されたものではないが、人的災害に対して衣服を着用することで身を守ろうとする作品の一例として取り上げた。

1–2–1–3. Anti-AI Mask by Ewa Nowak

『Anti-AI Mask』は、ポーランドのデザイナーであるEwa Nowakによる、公共の監視カメラで使用されている顔認識アルゴリズムが装着者の顔を検出できないようにするジュエリー作品である。
真鍮の円と眼鏡のつるのようなパーツからなるこの作品は、DeepFace(深層学習顔認識システム)による顔のタグ付けから逃れるための装着具である。
直接的な災害への対策として作られた作品ではないが、コロナ禍などにともなう人々の行動の監視と管理に対して、対策を講じる一つのファッションアイテムとしてここで取り上げた。

1–2–1–4. HATRA by Keisuke Nagami

『HATRA』は、ファッションデザイナーの長見佳祐が手がける、2010年よりスタートしたファッションブランドである。

裏毛素材などを使い、パーカーを中心とした服作りをおこなう。

外部環境から身を守るための衣服は先述のFINAL HOMEやLucy Ortaの例で取り上げたが、長見佳祐は「部屋」というメタファーを使い、都市の中にいても安心できる個人的な空間を持ち運ぶことを目的として、深いフードのついたパーカーを制作している。

都市で生き延びるために、個人的な空間を持ち運んでボトムアップに身を守っているファッションの一例である。

1–2–1–5. STEALTH WEAR by Adam Harvey

『STEALTH WEAR』はベルリンを拠点としてコンピュータビジョンや監視、プライバシーに関する制作を行う研究者・アーティストである、Adam Harveyによる2012年の作品である。

この作品は、熱放射を反射する銀メッキが施されたテキスタイルを使ったポンチョで、着用者はドローンや監視カメラからのサーモグラフィー監視から逃れることができる。

先述のAnti-AI Maskと同様、直接的な災害への対策として作られた作品ではないが、コロナ禍などにともなう人々の行動の監視と管理に対して、対策を講じる一つのファッションアイテムとしてここで取り上げた。

1–2–1. トップダウン・フィクション:架空の・未来のあり得るかもしれないファッションを夢想する
1–2–1–1. The Absent Presence by Hussein Chalayan

Hussein Chalayanは、イギリス・キプロス・トルコのバックグラウンドを持ち、ロンドンをベースとして活動するファッションデザイナーである。『The Absent Presence』はバイオテクノロジーや生権力の議論をベースとしたSFシナリオと、それに対応する彫刻、衣服そして映像からなる作品である。作品中では、未知の人々から収集した衣服からDNAを抽出し、彫刻のような衣服を制作するプロセスが、ナレーションを軸に説明される。
彼自身の複雑なバックグラウンドをインスピレーションに、フィクションと衣服を制作している点でフィクションを用いたトップダウン型のファッションデザインの例として取り上げる。

1–2–1–1. ASEEDONCLOUD by Kentaro Tamai

『ASEEDONCLOUD』は、ファッションデザイナーの玉井健太郎が手がける、2008年にスタートしたファッションブランドである。19世紀後半から20世紀初頭のワークウェアをベースとし、毎シーズン「架空の職業」とそのシナリオを設定して、物語内のワークウェアを仕立てるというプロセスで衣服を制作する。

都市や災害とは関係が薄いものの、後述のデザインフィクションのような設計プロセスで衣服を制作することから、フィクションを通した制作の例としてここで取り上げる。

1–3. Evaluation:評価基準の設定と採点

ここで、以上にあげたようなファッションや建築、サイエンスフィクションの作品・実践の整理を踏まえ、以下の4つの評価基準を設定してそれぞれを以下図表のように採点し、重み付けを試みた。

4つの評価基準は

Evaluation 1: ボトムアップ・戦術的な都市利用が推進されているか
Evaluation 2: フィクションを用いて未来の都市を思索しているか
Evaluation 3: ファッションの創造性が用いられているか
Evaluation 4: 自然・生物学的災害に関して議論が誘発されているか

を設定した。

2019年、大型の台風19号が都心を直撃したとき、都市の排水機能がパンクし、武蔵小杉の高層マンションではエレベーターが冠水して家から出られなくなったり、下水が逆流して街中が排泄物まみれになった、という騒ぎがあった。都市の再開発と高層マンションの建設がどんどん増えていることにも明らかなように、都市の高層化はこれからもどんどん進むなか、自然災害のリスクと寄り添って生きていく術が、より一層求められるようになると考えられる。

こうした超高層住宅とそこで起きるサバイバルの風景は、1975年に出版されたSF小説にすでに見られる。

JGバラードによる『ハイライズ』では、上下格差が原因でスラム化した高層マンションで、次第にサバイバルを強いられる男の姿が描かれる。

筆者は、『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』といった、近未来のサイエンス・フィクションの作品に幼い時に出会ってから親しみがあり、影響を受けてきた。SF、とりわけサイバーパンクといったジャンルで括られる上記のような作品には、肉体の一部が機械や生体パーツで置き換わっているような広義の「サイボーグ」などに代表されるように、既存の人間の体の形にとらわれない奇妙な形をした人物たちが、技術によって拡張され、生まれ持った体の形を失いつつも、新たなアイデンティティを獲得していこうとする未来の人間の姿が描かれる。技術によってエンハンスされた人間が新しい人間像や新しい生活様式を手に入れる際、サイバーパンク的な想像力をもとに推論することが未来の衣生活を想像する際に重要なのではないかと考えた。

第2章 研究目的

本研究は以上のような都市設計分野における戦術的介入と、ファッション分野におけるフィクションを基にした制作と、都市から身を守るためのストリートファッションの創造性を前提としている。そこで、都市における気候変動に伴う自然環境の変化や、デジタルな監視・管理制度に伴う人工環境の変化に対抗するために、戦術的に都市を生きるための創造力としてのストリートファッションの応用可能性を自分の実践を通して検討することを目的とする。

第3章 研究手法

本研究では都市における自然・人工環境の変化を、現在実際に起こっている状況の変化に即して分析し、未来でありうべきファッションデザインを思索するために、サイエンスフィクションのシナリオと、そのシナリオに登場する人物の衣服を制作する。

シナリオ制作の手法にはSF作家であるブルース・スターリングらが開発した「Design Fiction」の手法を応用した。

そして制作物を評価・省察する段階では、ビル・ゲイバーらが開発した主にコンピュータ・ヒューマンインタラクション(CHI)学会やリサーチスルーデザイン(RtD)学会の論文における制作物の記述手法として用いられる「Annotated Portfolio」を応用した。

3–1. Design Fiction

本制作では、災害都市をサバイバルするための未来の衣生活が求められる世界を明らかにするために、デザインフィクションの手法を応用した。

デザインフィクションは、「サイバーパンク」のジャンルの創始者の一人であるSF作家のブルーススターリングが提唱し、彼をはじめとして開発されたデザインにおける制作手法で、「変化についての不信を一旦保留するために、意図的に物語世界内のプロトタイプを使うこと」(Sterling, 2012)と定義されている。

また、よりプラクティカルな定義としては、カリフォルニアとEUに拠点を持ちデザインリサーチを用いた作品制作や研究を行うラボ、Near Future Laboratoryを運営するジュリアン・ブリーカーによって、デザインフィクションは「デザイン、サイエンスファクト、サイエンスフィクションの融合」とされる。

スペキュラティブ・デザインを提唱したDunne & Rabyによっては「『物事を明らかにすること』ではなく『議論の場を作る』ためのフィクション」と説明される。

つまり、デザインフィクションの手法を用いた作品では、人工物と、デザインのアイデアに説得力を持たせるための物語世界であるフィクションの両方を制作し、物語世界内部のプロップスを中心として議論を巻き起こすことで、いま・こことは異なるありうべき世界について考えることを目的とする。

3–2. Annotated Portfolio

本制作を評価・省察するために制作物を記述する手法にあたっては、CHI学会においてビル・ゲイバーらが実践している「実践的デザインリサーチ」の方法論に依拠し、ゲイバーらによって提唱されたAnnotated Portfolioの形式を応用する。
Annotated Portfolioは、「研究コミュニティにおけるより広範な関心事に対処しながら、人工物そのものとの親密な索引的な関係を保持するデザイナーの思考を説明するための手段である。」と定義されている。(Gaver, 2012)
ゲイバーらは、

・the functionality of the design(制作物が果たすべき役割・果たす価値)
・the aesthetics(制作物がどのような形態であるべきか)
・the practicalities of its production(制作にあたってどのようなマテリアル、道具、技術が必要か)
・the motivation for making(制作者の意図)
・the identities and capabilities pf the people whom the artifact is intended(ユーザーはどのように制作物を活用するのか)
・sociopolitical concerns(制作物がどのような影響をもたらすのか)

の6つの軸を用いて制作物を記述することによって、設計要件だけではなくデザイナーが問題に対してどのように対応したのかについて、デザイナーからの一種の意見表明を明らかにすることを目的とする、としている。

本制作の成果物は、制作の根拠がSFシナリオと結びついていたり、デザインにあたって素材から培養して制作するなど、複雑な設計プロセスを経ている。

そこで、論文での記述にあたってAnnotated Portfolioの手法を採用し、写真にアノテーションをつける形で成果物に関して詳細を記述していくことが妥当だと考えた。

第4章 実践

本実践では、『Tactical Rising』と『Quarantine Surveillance』の2つの制作を行った。

『Tactical Rising』では、人新世における気候変動をテーマに、「極限環境と化した都市」において重要な職業となった配達業を物語の中心としたSFシナリオと、そこに出てくる登場人物の衣服とプロップスを制作した。

『Quarantine Surveillance』では、感染症が流行する都市をテーマに、個人の移動経路を監視するシステムから自由と尊厳を守るために、自宅で布を培養しつつ対監視ジャケットを制作するSFシナリオと、実際にバイオマテリアルを使ったジャケットを制作した。

本実践では2つの制作を通じて、人新世における環境的要因・人為的要因から起こる都市生活のままならなさをストリートファッションの創造性を生かして戦術的にサバイバルする方法を思索した。

4–1. Tactical Rising

『Tactical Rising』では、人新世における気候変動をテーマに、「極限環境と化した都市」において重要な職業となった配達業を物語の中心としたSFシナリオと、そこに出てくる登場人物の衣服とプロップスを制作した。

4–1–1. 内容とあらすじ

『Tactical Rising』では、人新世における気候変動をテーマに、「極限環境と化した都市」において重要な職業となった配達業を物語の中心としたSFシナリオと、そこに出てくる登場人物の衣服とプロップスを制作した。
本作の主人公であるズーウーは、「壁面配達者」と呼ばれる、いわばエクストリーム・ウーバーイーツの運び屋だ。壁面配達者とは、超高層住宅<コンクリフ>に住む住民たちから依頼を受け、極限環境と化した東京において希少な、バッテリーや物資の配送を担う、架空の職業である。ズーウーの運ぶエネルギーや物資は、しばしばコンフリクト上空に住まう「電気窃盗者」と呼ばれる集団に狙われ、配達の最中にも攻防を繰り広げる。電気窃盗者たちを裏から操る「建設者」という存在は、都市におけるタクティカルなサバイバーたちを完全に支配するために、太陽光発電を求めて都市のさらなる高層化を画策している。この物語はつまり、行き過ぎた建築の高層化への反省なしに際限なく戦略を推し進めようとする建設者と、それに対して、災害によって極限環境と化した都市を戦術的にサバイバルする壁面配達者・ズーウーの戦いをフィクションを通して描くことで、「都市を戦術的に使う」とは何かについて思索する。

4–1–2. 制作の背景

本作は人新世におけるデザイン環境の変化を背景としている。この主題では、「都市から極限環境へ」という近年の人工環境の劇的な変化に着目する。今後、気候変動で災害が増えて、人間が今まで建設してきた建築や都市が、逆に我々に牙を剝くのではないか、という仮説を本作ではベースにしている。

そのような極限環境に住む生活者である我々は、戦略的な都市設計に期待するのではなく、自分たちの手で、より身体スケールで、戦術的に生活を作っていくことが今後重要なのではないか、というのが本作のテーマである。

わかりやすい例で言えば昨年、大型の台風19号が都心を直撃したときに、武蔵小杉の高層マンションではエレベーターが冠水して家から出られなくなったり、下水が逆流して街中が汚水まみれになった、という騒ぎがあった。都市の再開発と高層マンションの建設がどんどん増えていることにも明らかなように、都市の高層化はこれからもどんどん進むなか、自然災害のリスクと寄り添って生きていく術が、より一層求められるようになると考えられる。

こうした超高層住宅とそこで起きるサバイバルの風景は、1975年に出版されたSF小説にすでに見られる。JGバラードによる『ハイライズ』では、上下格差が原因でスラム化した高層マンションで、次第にサバイバルを強いられる男の姿が描かれている。

4–1–3. 手法

本作では、ここに図示したようなプロセスで制作を遂行した。

1. Previous Review: デスクトップリサーチ

概要
気候の変化が原因で起こる都市での新たな「事故」について、すでに起こった台風や地震でをはじめとする自然災害の際にどのような被害があったのか、インターネットでニュースの検索をベースにリサーチした。

目的
自然災害の内容と、それに起因して起こる都市での事故の相関性を調査し、シナリオに設定した自然災害によって新たにどういう事故が起こる可能性があるか設定を補強するためにリサーチを行った。

手法
検索ブラウザを利用して、台風被害や地震被害のニュースをピックアップし、100事例集めた。

結果
気候要因とそこからつながる都市での事故の内容をエクセルシートにまとめた。

強制発想法で使うエクセルシートの、縦軸と横軸の内容を決めた。

2. Ideation: 強制発想法

概要
縦軸に気候要因、横軸に事故内容を配したマトリクスを切り、約80の具体的な気候が要因となって起こりうる事故の内容の組み合わせを生成した。

目的
自然災害の内容と、それに起因して起こる都市での事故を組み合わせを使って列挙し、以後に実施するワークショップのためのシナリオの準備を行った。

手法
エクセルシートの横軸に気候、縦軸に気候が原因で起こる事故を並べ、その表の縦軸と横軸が重なる場所に、それらの原因と結果を組み合わせて繋げて内容を記載する。

結果
シナリオの骨子になるアイデアを80個生成した。

3. Ideation: ワーショップ

概要
強制発想法を行った結果生成した80のシナリオのベースから1つをピックアップし、その事故が頻繁に起こる世界と共に生きる人の職業と衣服を考えるアイディエーションワークショップを実施した。

目的
気候による事故のシナリオから、具体的な服の形を考える。

手法
強制発想法で生成した80のシナリオのアイデアから1つピックアップし、1つのシナリオをベースに複数人でそこに登場する人物の衣服を制限時間内に考える。
記入後、一人ずつ発表し、シナリオを変えて別のトピックについて同じように複数人で考える工程を10周行った。

結果
衣服制作の骨子になるアイデアを50個生成した。

4–1–4. 成果

以上のような研究背景のリサーチ、ワークショップ、シナリオとプロダクトの試作を経て、衣服とSFシナリオの大きく2つの成果物を製作した。

4–1–5. 成果物
4–1–5–1. 成果物1:衣服

4–1–5–2. 成果物2:SFシナリオ


2011年に起こった震災では東京も大きな被害を受け、昨年2019年にも大型の台風19号「ハギビス」が都心を直撃し、公共交通機関が計画運休、都内の多くの場所で洪水や浸水が起き、都市のシステムがシャットダウンした。この先30年以内には、70%以上の確率で南海トラフ地震が発生し、先の震災の20倍以上の被害者が想定されるとも言われている。日本で生きることは、地震や台風など、人間の力をはるかに超えた崇高とも言える自然災害と付き合って生きていくということだ。
自然災害によって都市の形が否応無くつくりかえられてしまったとき、それでも我々は都市と寄り添って生きていくにはどうすればいいのだろうか?
そして都市が我々に牙を剝く極限環境空間になってしまったとき、一体その都市を誰が戦術的にサバイバルできるのだろうか──────?

1945年 アメリカ・ニューメキシコ
トリニティ実験、世界で最初の核実験が行われる。人新世と呼ばれる時代の幕開けである。
1995年 阪神淡路大震災
2011年 東日本大震災 原子力発電所が被災し、放射能漏れなど甚大な被害が発生する。
2012年 原子力発電所の稼働停止により関東地方を中心に、計画停電が起こる。原子力発電所の安全性が一時問題化し、全国で相次いで原子力発電所の廃炉が決定し。2014年 全国の発電量に占める割合が0%になるも、翌年からは徐々にまた上昇し、その発電割合は7.9%まで回復する。
2020年 東京の人口が1000万人を突破し、都市の超高層化が求められる。
2021年 超高層住宅密集地帯<コンクリフ> 着工
2023年 コンクリフ 竣工
2025年 南海トラフ巨大地震発生。全国の原子力発電所の安全装置が駆動し、大停電<ブラックアウト>が起きる。
超高層ビル居住者は階段での避難を余儀無くされる。
超高層ビルにおいて、上層階居住者が抜けた結果、上層階が廃墟と化す。
2026年 避難民の高層階居住者を対象に、所有物を高層階から下界に降ろすクライマーという業務形態が生まれる。
2028年 廃墟となった上層階へ、徐々に路上生活者や住居を追われた者たちが占拠するようになる。クライマーは、上層階から下層階への物資の受け渡しも取り持つようになる。
2029年 ズー・ウーがクライマーに登録する。

ロープにつけたカラビナを外し、ハーネスへとかけ移した。その日最後の配達を終え、帰路につく。外は小雨が降っている。人通りはほとんどない。もう2 年以上この都市の人たちはそれぞれの高層住宅に閉じこもってしまった。今更外を出歩く物好きなど、われわれ壁面配達者たちだけだろう。もうほとんど巷では流通していないバッテリーを、電気窃盗者たちに狙われてはいけない。ズー・ウーはバックパックを背負い直すと足早に高層ビルの挾間を駆けていった。5 年前に発生した巨大地震、そしてあの大停電から、われわれの生活は一変した。2011 年、そして二度目の地震による、発電所の破壊と暴走は国民を震撼させ、ついに電力を嫌う電源恐怖症を発症する者まで現れた。極度の人口過密地域でもある東京は、住宅を超高層ビル<メガストラクチャー>という形で縦に伸ばしつづけることで、その過密し続ける居住者数を担保していた。ところがブラックアウトにともなう慢性的な電力不足によって、縦に伸び続けたメガストラクチャー住宅が牙を剝く。高層階居住者の中には帰宅難民になる者たち、および生活必需品不足による生存困難者が続出し、メガストラクチャー・ユートピアは突如一片の切り立った崖へと一変した。そんな慢性的な電力不足の最中でも、高層生活に適応する職業があわられた。それが壁面配達者である。彼らはメガストラクチャーを壁面伝いに登っていき、高層階生活者の部屋に食料やわずかなバッテリーを配達することをライフワークとしている。ズー・ウーも1 年前からクライマーとして登録し、配達で生計を立てている。配達先で分けてもらったたばこを一本吸い終わって、物足りなさを感じたが部屋へと入った。ズー・ウーにとっては久しぶりの喫煙だった。たばこの葉の生産土壌は、地震にともなう津波によって押し流されてしまったとも言う。ズー・ウーは2 匹のマイタの棲む水槽に餌を撒き、そして深い眠りについた。

配達依頼通知音で目を覚ました。ずいぶん長く眠ってしまっていたようだ。冬の西日がメガストラクチャーを深い紅色に染めている。そろそろ準備をして配達に出かけるとしよう。ズー・ウーはハーネスを腰に巻き、バッテリーやブレイクハンマーを備えたベストを装着する。背負子にロープ、サクションカップを載せて靴を履く。グローブをはめてマイタに行ってきますの挨拶をし、円形の窓から地上まで降ろしたロープに足を掛けると、慣れた手つきでスルスルと依頼品を受け取りに霧の濃い第0 層へと下降していった。

端末で配達区画を確認する。A12 区間が配達地域のようだ。あの辺りは近頃電気窃盗者たちがうろつき、つい一昨日も配達品を狙って同業者が襲われたばかりと聞く。日暮れまであともうあまり猶予がない。さっさと納品を片付けて家に戻らねば。

前任のクライマーたちによって超高層住宅の屋上から掛けられたロープに、落下防止用のランヤードをかけ、腰のハーネスへとつなぐ。壁面吸着パッドを取り出し、ガラスに貼り付けて足場を作っていく。配達指定フロアは第32階層だ。ズー・ウーは足場を見つけ、慣れた手つきで次々とロープとパッドを使って壁をのぼっていく。それと同時に太陽は少しずつ地平線へと消えていく。太陽が沈み、あたりは一段と暗くなった。26 階層目に手を伸ばしたそのとき、とつぜんズー・ウーは妙な匂いを感じとった。モーターが擦り切れるときような、油臭い金属臭が鼻の奥をツンと突いた。咄嗟に身の危険を感じて、急いでスライダーのロックを解除して急降下する。左右から壁を走る音が増してくる。電気窃盗者だ!地上まであと20 階層、彼らから逃げ切って地上にたどり着くのは間に合わない。チャージャーたちがすぐ真横へと迫っている。ズー・ウーは思い切って降下に急ブレーキをかけた。チャージャーがブレーキを掛ける前に、背後をとって第19 階層内部へ侵入しよう。胸のツールポケットからブレイクハンマーを取り出し即座に窓ガラスを割って、屋外からの脱出を試みる。第20 階層の外壁を勢いよく蹴ると、反動を振り子のように使って19 階層へと飛び込んだ。チャージャーたちはひとまず巻けたようだ。彼ら特有のあの匂い、何だっただろうか……。建設機械に似た、油の匂い……。空洞になっている廊下を駆け抜けてビルの反対側へ。開いている窓から、またビルの外へまっすぐ飛び出す。ロープを掴むと、彼らにまた見つからないように、ひっそりと息を殺しながら32 階層を目指す。日はすでに暮れ、月が顔を出す。雲の上まで出ると、何も月の光を遮るものはない。呼吸用マスクをきつく締め、配達先の32 階層を目前に、壁面にへばりつきながら慎重に進む。第32 階層についた。30 階層以上にあたる高階層ブロックA では、ブラックアウト以前にはコンクリフはおろか、住居すら持たなかった低所得者たちが、富裕層の底階層移住にともなう空洞化に便乗し、不法侵入して住み続けているのだった。彼らはその住居の高さを利用して、太陽光パネルや位置エネルギーを駆使して僅かながら電気を生み出し、底階層に住む富裕層の住人たちと「物電交換」をしてなんとか食べ繋いでいる。ズー・ウーは書類にサインをもらい、電力の返礼品としての食料と空のバッテリーを彼らに渡し、そしてまた充電されたバッテリーを低層階への配達品として受け取った。長居は無用だ。荷物を硬く背負子に縛っていることを確認し、フロアの鉄筋に硬く縛られたロープにランヤードを掛け直すと、両足でロープを挟むようにして体勢を保ちながら、一気に自由降下する。

鈍い痛みとともに気が付いた。後頭部から熱いドロドロが流れ出ているのを感じる。自由降下中に気を失っていたことに気づいたのは、惜しくもすでに金属臭の装甲者に抱えられて屋上へと連れ去られる最中だった……。

はるか頭上にはメガストラクチャーの屋上でいまも増設を続ける機械建設者たちの地鳴りが響く。人知れぬ上空ではブラックアウトより電力を失って以後、機械建設者たちが失われた電力の独占を求めて自ら雲の上を目指して今日もメガストラクチャーの増改築を続けている。チャージャーたちが、壁面を行き交う配達者たちから奪った電力を糧にして──────。

4–2. Quarantine Surveillance

2つ目の制作である『Quarantine Surveillance』では、バイオマテリアルを使ったジャケットを制作した。

感染症が流行する都市を舞台に、個人の移動経路を監視するシステムから自由と尊厳を守るため、都市の商店が営業自粛を求められる中でDIYバイオのレシピをもとに、GPS電波を端末から遮断するためのアルミ箔を挟んだテキスタイルを自宅で布を培養しつつ、対監視ジャケットを制作するSFシナリオと、実際にバイオマテリアルを使ったジャケットを制作した。

4–2–1. バイオマテリアルの制作

WAAGとTextile Lab、スペイン・バルセロナのFabLab BCNらが協働して2017年から運営するFabricademyの講義内容から抜粋し、研究に応用するバイオテキスタイルを選定した。

使用した機材
・グラムはかり
・コンロ
・なべ
・計量スプーン
・計量カップ
・カッター
・マスキングテープ
・プラスチック板(カッターで加工できる厚さ。筆者が使用したものはダイソー 乳白色PPシート 390*550*0.75mm)

バイオテキスタイルの材料
水 480ml
ゼラチンパウダー 96g
グリセリン 24g

テキスタイル制作の手順

  1. プラスチック板で流し込み用の枠を作る。
    板の端から1cmのところに、板の端に平行な切れ込みを入れて曲げる。枠はバイオテキスタイルが乾燥したときにすぐ解体できるように、角をマスキングテープで仮止めする。
  2. なべのなかに水とゼラチンパウダーを入れる。
    まだ温めない。ゼラチンパウダーは一気に入れるとダマになるのでゆっくりとかき混ぜつつ丁寧に混ぜる。完全に溶け切らなくてもよい。
  3. なべを火にかける。
    弱火で混ぜ続けるが、ゆっくりと。むやみにかき混ぜると気泡ができて、テキスタイルの見た目に影響する。
  4. 均質になったらグリセリンを加える。
  5. ある程度混ざったら、沸騰が始まる前に火から下ろす。
  6. 枠に流し込む。
  7. 1週間ほど乾燥させ、多少引っ張っても形が崩れないようになってきたら、枠からはがして両面乾燥させる。

4–2–2. 成果物1:衣服
4–2–2–1. 制作過程

4–2–2–2. 完成した衣服

4–2–2. 成果物2:SFシナリオ

本作は、監視社会と循環型素材をテーマにしたSFシナリオである。制作にあたっては、フィリップ・K・ディックによる短編SF小説『Minority Report』と、ジョシュ・マラーマンによるサスペンス小説『Bird Box』を参考に執筆した。


パンデミックによる超監視社会から逃れようと、対GPS服を作って、ある場所に存在すると言われている、監視の目の届かない集落へ移住しようと決心する主人公・絵来。
そこで待ち受けていたのは、そこでは病気に苦しみながらも制御なく自由に生きようとする人々がいる村だった。
安心な暮らしと引き換えに自由を失い、人間が作り変えてしまった都市と、作り変える前に戻ろうと何かを失う人々を前にする絵来。

管理と自由、双方生きる道はないのか?

新東京第二都市、西暦二千三十二年年 秋

朝、いつもより早く目覚めた。起きてベッドに独りだと気づくのにまだ慣れない。自分だけで生活するようになってもう3ヶ月以上たつのに、ダブルベッドをいつも右半分しか使わないで寝ている。絵来は左胸をダブルタップしてアラームを止めた。ベッドの脇に置いてあるコップの水を飲み干してから、サイドテーブルのバイナルに針を落とす。Morrisseyの甘い声が一人暮らしの朝の寂しさを少しだけ紛らわせてくれる。

二千二十五年、度重なるパンデミックの末に東京の自治は崩壊し、都政は大胆な策に出た。それは、東京を3都市に解体し、過密都市を分散して人の接触をなるべく減らすという政策だった。それに加えて、人々にはGPS付き人体埋め込み型スマートデバイスの手術が義務付けられ、接触を伴う行動が徹底的に監視・管理された。周囲3m以内に近づく他者は電子帳簿上に記録され、市民は行動の制御が求められた。

都市には顔認証カメラがあらゆる場所に設置され、GPSと顔認証で常に移動はトップダウン的に管理されている。まさにパノプティコンだった。

それでも絵来は、外に出たかった。感染のリスクを犯してでも、人と生で触れ合って空間を共有したかった。

朝食を食べながら絵来はふと前にネット上で見た噂を思い出した。それは、旧東京の多摩川上流にある地域では、今でも政府による監視が及ばず、自由に暮らしている集落がSCPとして登録されているらしい、というものだった。当時は生活にそれなりに満足していたが、恋人を失い、一人寂しく陸の孤島に隠居している絵来には今、迷う余地はなかった。
今の生活を捨てて集落を探しに行こう、と彼女はすぐさま決心した。

しかし、そう簡単に超管理型都市をすり抜けて無法地帯へ足を伸ばせるはずもなかった。埋め込みデバイスをうまく騙しつつ、隠密移動するにはどうすればいいんだろう。
亡くなった父がファッションデザイナーであった絵来は、幼い頃に父と一緒に遊びで服を作っていた経験があった。
数々の営業自粛で布が手に入らなかった絵来は、キッチンにあるバイオマテリアルと、電波を反射するアルミ箔を使って対GPS・監視カメラ型シェルを1週間かけてつくりあげた。

早朝の電車に乗り込み、フードを深くかぶる。顔の半分を覆い、車内のカメラへの暴露に気を遣う。普段なら顔認証からパーソナライズされる広告は、家を出た瞬間から私を認識できないことで403を起こしてやがる。最終地点へたどり着くと、そこから歩いて上流へと向かった。

8時間程度あるいただろうか。人里離れた森の奥地に、立ち入り禁止看板が見えた。しかしそこには自動検温装置や認証カメラはなく、ただ柵だけが設置されている。

ここに間違いない、と絵来は思った。柵を飛び越える際、飛び出た針金に引っかかって服を破いてしまった。もう後戻りはできない。

集落は廃病院を中心として十幾つかの民家が囲う小さなものだった。病院の奥手を回り、中を覗こうとした瞬間、落ち葉を踏むガサッという音が背後で聞こえた。絵来は男に呼び止められた。

瞬間的に必死で逃げたが、絵来は角に追い詰められた。彼は絵来が集落の住民でないことを見てとると、ホルスターに手をかけ銃のようなものを取り出した。終わりだ、と思って目を閉じた瞬間、平熱を知らせるピッという音が拍子抜けに響いた。彼が握っていたものは銃ではなく、トリガーのついた赤外線温度計だった…。

絵来は住民らに拘束され、廃病院の中で検査を受けさせられた。ウイルスに感染していないことが判明すると、彼らは拘束を解き、集落を案内した。

集落では都市のように人々の行動を管理するアーキテクチャは一つも機能していなかった。

住民たちはインプラントを拒み、都市の管理から逃げてきた人々だった。彼らは自由に人と話す生活を愛し、山でとった野菜や魚を食べて暮らしていた。絵来にとってそこはまさに理想郷だった。こんな生活を見るのは十数年ぶりだった。

しかし、村はゆっくりと死にかけているのだ、と男は言った。廃病院の隔離室では、いまも病気に苦しむ人がいて、いずれ彼も村から出ずに死んでいくのだ、と。

行動の自由を束縛されてバーチャルに移行してでも資本のある人生を送るか、左胸のインプラントを切除して、従来の人間らしい生活をとってこの死にかけている集落とともに暮らしていくか、どちらか選択を彼女は強いられた──────。

第5章 省察

5–1. 評価の設計

5–1–1. 評価の目的

本章では、自然災害と共生するための戦術的な都市生活・衣生活の未来についての議論をいかにして誘発できるのかという研究の問いに基づき、ファッションとフィクション、タクティカルアーバニズムが融合した領域横断研究における新しい評価基準を、専門家との共同調査によって明らかにする。

5–1–2. 評価対象

既往研究調査をするなかで明らかになった以下4つの評価項目についてそれぞれ2、3問のアンケートと、その評価に至った過程についてインタビューをする。評価項目は以下の通りである。

Evaluation 1: ボトムアップ・戦術的な都市利用が推進されているか
Evaluation 2: フィクションを用いて未来の都市を思索しているか
Evaluation 3: ファッションの創造性が用いられているか
Evaluation 4: 自然・生物学的災害に関して議論が誘発されているか

5–1–3. 評価手法

ファッションデザイナー1名、SF作家1名に対し、以下に記すように定量的調査法と定性的調査法の組み合わせによって、評価を明らかにした。

定量評価(10段階評価アンケート)
評価対象に示した4つの評価基準をどの程度達成できているかについての質問を、Google Formを通して4–5問回答してもらう。

定性評価(デプスインタビュー)
定量評価への回答に対して、その理由や文脈、背景について1対1のインタビュー形式で明らかにする。

5–1–4. 評価者

長見佳祐氏(ファッションデザイナー)
本稿、研究背景の章にて触れたファッションブランド「HATRA」を手がけるファッションデザイナーの長見佳祐氏に、ファッションデザインの手法としてのSFシナリオ執筆の関して(Evaluation 2に対応)と服のプロトタイプの機能性と審美性に関して(Evaluation 3に対応)の定性調査と定量調査をおこなった。

津久井五月氏(SF作家)
SF作家の津久井五月氏に、SFシナリオの制作手法に関して(Evaluation 2に対応)と戦術的な都市利用に関して(Evaluation 1に対応)、デザインフィクションを通した議論の誘発に関して(Evaluation 4に対応)の定性調査と定量調査をおこなった。

5–1–5. 調査項目の設定

5–1–5–1. Google Formを使った定量評価(10段階評価アンケート)

長見佳祐氏へのアンケート項目
SFシナリオについてお聞きします。(Evaluation 2に対応
・このフィクションを通して未来の都市生活が、どのくらい想像できていますか?
・服の制作につながる世界観をフィクションでどのくらい提示できていますか?
服のプロトタイプについてお聞きします。(Evaluation 3:に対応)
・ フィクションで必要とされる機能と衣服がどのくらい結びついていますか?
・この衣服でフィクション内の世界観がどのくらい表現できていますか?
・この衣服を着たいと思えるような審美性をどのくらいもっていますか?

津久井五月氏へのアンケート項目
SFシナリオの作り方と表現についてお聞きします(Evaluation 2に対応)
・このフィクションを通して未来の都市生活が、どのくらい想像できていますか?
・フィクションを制作するにあたって使った手法がどのくらい有効だと思いますか?
ボトムアップ・戦術的な都市利用が推進されているか(Evaluation 1に対応)
・この世界内で登場する人物たちは、どのくらい「都市における戦略と戦術の対比」を描けていると思いますか?
・このフィクション内でどのくらい「戦術的な都市利用」が推進されていると思いますか?
自然・生物学的災害に関して議論が誘発されているか(Evaluation 4に対応)
・このフィクションを通じて、「自然・生物学的災害と共に生きる生活」をどのくらい想像できましたか?
・ シナリオを読んで、未来に起こりうるかもしれない災害に対して、どのくらい戦術的に都市を利用したいと思いましたか?

5–1–5–2. ZOOMを使った定性評価(デプスインタビュー)

各質問に対して評価の理由を聞く
「なぜその定量評価に至ったのですか?」
ポジティブな点
「質問1の観点から、よかった点・評価できる点はどこですか?」
ネガティブな点
「質問1の観点から、悪かった点・評価できない点はどこですか?」
「[評価者]だったら、どのように改善しますか?」

5–2. 評価の結果

5–2–1. 長見佳祐氏へのインタビュー

質問1:このフィクションを通して未来の都市生活が、どのくらい想像できますか?
評価:6点/10

評価できる点:
『Tactical Rising』の方の制作では、大きな世界観と、そこに戦術を持って対応するシナリオが描けていると思いました。

改善できる点:
一方で、『Quarantine Surveillance』では、対応というよりも都市の悲観的な状況からの撤退が描かれていたように思います。
ですから、逆に主人公以外の超監視社会で生きているそのほかの人たちがなんとか生を繋いでいる話の方が気になってしまった、という印象がありました。

質問2:服の制作につながる世界観をフィクションでどのくらい提示できていると思いますか?
評価:7点/10

評価できる点:
衣服の主題とプロトタイピングの再帰的関係
フィクションの制作を通して衣服のデザインを考えるという試みは、「この世にないものをつくる」ということに対して、すごく誠実なアプローチだと感じました。
見かけ上、「世界観を設定してそれに対応する服を作る」というアプローチは、ほかのファッションデザイナーの方もやっていると言う方もいますが、じゃあ本当にその世界について緻密に考えているか?と言われると、実はそれは服のための後付けだったりすることが往往にしてあると思います。
それを、このプロセスを通してやっている例はファッションの場では本当に少ないと思うので、良い点だと思いました。仮にこれのバリエーションが80あるとしたら、見てみたいものになると思います。
僕は服の制作をする際に、「テーマ」という言葉は使わないようにしています。それは最初にトップダウンな形で言葉を決定し、それを因数分解するような形で服に落とし込む、というプロセスでは実際ないからです。
それは色々やってみた中で最適だと思った、ということもあるし、ファッションでは特に半年に一回成果物を発表するというサイクルもあるので、スピード感的に半年前に決定したテーマをずっと変えないというプロセスには無理がある、ということでもあります。
つまり、成果物を作る前より作る途中の方が成果物に対する影響を受けやすいので、プロトタイピングする中で、再帰的にフレームを構築していく方がいいという意味です。その意味で、服を作ることと並行してシナリオを制作するプロセスは誠実なアプローチなのではないでしょうか。

関係性の表現としてのファッション
着る人にとって「服の実用性」というのは「自分が・相手が着て良いと思うか」ということでしか判断できないと思います。それが、結果的にパリコレ四天王のようなミームを生んでファッションが着る人から乖離していくということにつながっているのではないかと考えています。
シナリオを構築することで、ある程度着る人の生活を想像しつつ形や機能に関して設計するというプロセスが含まれているのは、トップダウン的になりすぎるという現象を回避するのに有効になっているのではないでしょうか。
ファッションは、関係性の表現形態だと思っています。衣服を使ってどういうコミュニケーションをとるかが重要なことだと思います。もちろんこのプロジェクトにおいても、Iris Van Herpenの服であっても、程度の差はあれどそうだと思います。
そのコミュニケーションの前提条件をパッとみた人からすると読み込めないので、このプロジェクトのようにシナリオ仕立てになっていて、コミュニケーションの前提が組み立てられているということは、見る人にとってよい流れになっていると思いました。

改善できる点:
ファッションのサイクルとシナリオライティング
コミュニケーションの前提を構築するにあたって、文字列に圧縮している時間は、制作の中で膨大になってしまうという問題はあると思います。僕らが生活している中で、高次元な生活や世界観を持っていても、ある程度文字に書き起こすのには時間がかかると思います。極端に言うと、やっている間に飽きてしまうということもあり得るかもしれません。
シーズンの服を作るにあたって、80個も100個もシナリオを書き続けるとすると、集中力や「未来への強い渇望」がないとできないことだと思いました。

質問3:フィクションで必要とされる機能と衣服がどのくらい結びついていると思いますか?
評価:7点/10

質問4:この衣服でフィクション内の世界観がどのくらい表現できていると思いますか?
評価:4点/10

以下、質問3と質問4をまとめての講評

評価できる点:
即物的な意味での機能や見た目としては、見る限り鑑賞者の想像力を膨らませる助けになっているとは思います。

改善できる点:
一方で、「gear」ではなく「fashion」として、つまり「装い」や「出で立ち」という意味では少し弱いと思いました。
フィクション側の表現にも関わると思いますが、このクライマーの人がどのくらいの社会的な地位を持っている人なのか、どのようなコミュニティに属していて、どこで服を調達しているのかが、あまり示されていないという印象を受けました。服で表現する上で、そここそが僕は重要なのではないかと思います。
「こういう職業があるから、こういう機能があるといいだろう」といって形を組み立てているというやり方で制作していると思いますが、服としてみたときに、その服が、例えば今でいう「ワークマン」みたいなところで売っているのか、あるいはどこにも売っていないから、コスプレイヤーみたいに自前で「サバコス」的につくるしかないのか、など。
その様相になるにあたって、アメリカの特殊部隊みたいに最新鋭の装備を調達できないとすれば、社会的な前提があって、なにを用いてなにを妥協しているのかは、説明する余地があると思いました。
洋服の背後に、それに至るまでの文化が見えると良いと思います。

質問5:フィクションで必要とされる機能と衣服がどのくらい結びついていると思いますか?
評価:5点/10

評価できる点:
現実のスタイリングとしては単純によくまとまっていると言うか、かっこいいと思いました。
また、例えば、『Quarantine Surveillance』の方のパーカーをとってみると、パーカーは文化的な記号が弱いアイテムだと思います。つまり、パーカーを着ている人を見てどんな人かわかりずらい、とか、印象に残りづらいという特徴があります。シナリオに基づいて、身を隠すためにパーカーを選んでいるという点では成功していると思います。

改善できる点:
現実とのズレの設計

デザインフィクションの作品として、今我々が現実に生きているのと別のルールが働いているから、別のルールで成り立っている今の常識ではちょっと理解できない要素みたいなのがあまり感じられなかったのは、改善の余地かと思います。
バイオマテリアルを使って服を作ろうとしたときに、変わったマテリアルと審美性と結びつけるために、僕だったら、例えば「シャツ襟をつける」という改善案があると思います。
何か現実や暮らしの中で「こう言う服を着ている人はこうだ」という類型的な例を、バイオ素材の服に少しだけ混ぜ込んで行くことで、異化作用がうまく働くと思います。
例えばマウンテンパーカーであれば、袖の出口のベルクロストラップでもいいかもしれない。
僕らが暮らしている中での服は、常識領域の層があって、何か美的に新しいものを入れようとすると、その層の外側に出っ張るようにしてつくらなければいけないじゃないですか。でも、気をぬくとそれは出っ張りではなく浮島になってしまいます。ちゃんとつながりにするためには、浮島ではなく出っ張りにすることが重要なんだと思います。
例えば、このパーカーだと、N3Bのミリタリージャケットだと、前たてにジグザグのステッチが入っていますよね。そういったものを取り入れるように、型紙だけではなくステッチの入れ方や服飾資材で常識領域につなぎとめる、というやり方が有効だと思います。

5–2–2. 津久井五月氏へのインタビュー

質問1:このフィクションを通して未来の都市生活が、どのくらい想像できていますか?
評価:8点/10

評価できる点:
衣服を試作することを通した未来の都市生活の思索

何を描けば未来の都市のコンセプトが描けるか、という点はSFの執筆において難しい点だと思います。
この制作では衣服という、都市で生活するにあたって身体に一番近い人工物として表現していくというコンセプト自体が、未来の都市生活や都市のあり方を考える時も、切り口で有効だな、という感覚がありました。
衣服を表現することを通して考えていくというアプローチを踏まえると、街並みをすごく描写していたり、登場人物の衣食住や1日のライフスタイルが詳しく描写されているわけではなくとも、何を身につけているかを通して生活感を出すという戦略だと評価すると、よくできている話だなと思いました。

改善できる点:
人工環境の描写に、社会環境のレイヤーを足す
主人公以外の人物の生活をどう描くかが課題だと思いました。1人の人間がどういう生き方やどういうアクションをして生活しているかは描かれているが、他の人が主人公とどういう関わりを持っているかや、他の大衆や民衆がどういう生活をしているか。背景に当たるような人物の動きが描かれていると、社会の動きが見えるようになると思います。
いわゆるBuilt Environmentだけではなくて、もう1つ社会的なレイヤーが乗って、人間と環境の中で主人公がどうなっているか描けると良いかなと思いました。
具体的には、『Quarantine Surveilance』のSFシナリオでは、主人公が集落に赴いてからのシーンで、集落に住む人々の生活の実態が描かれていますが、同じようにもともと住んでいた監視が厳しい都市部においても、同様に周囲の人がどのように暮らしているかを描ければ、対比的にもう少しわかりやすくなるのかなと思います。

質問2:フィクションを制作するにあたって使われた手法がどのくらい有効だと思いますか?
評価:7点/10

評価できる点:
強制発想法と設定の密度

具体的なレベルの描写と世界観の設定が、密度高く設計されていると感じました。
デザインのプロジェクトということもありその設計を詰めることは非常に重要なポイントだと思います。
どういう世界であったり、どういう環境なのかを具体的に描いていたり、いまのこの状況になったのはどういう過程の結果なのか、という設定周りをSF作品としてみたときに、十分な量が含まれているなと思いました。
新しいルック、いまの現状をもうちょっと飛躍させた状況を作ろうとするという趣旨ははっきりわかります。そういう意味では、デザイン的な発想でSF作品を作るという意味での必要なピースは揃っていると思います。そして、それはある種、強制発想法のような手法でSFのお決まりにそこまで囚われずに広げて探索し、それを盛り込めているという点で評価できるポイントだと思います。

改善できる点:
構造化のプロセス

SFの短編として見たときにもっとできることがあるとすれば、1つはこの世界での価値観を明らかにすることだと思います。抽象的な意味でのテーマを際立たせることが可能だ、という意味です。
1つ1つのピースは揃っているけれども、そのピースが作品全体の雰囲気や抽象的に表現しようとしているテーマともう少し有機的に絡み合うことができるはずです。ピースをまとめて構造化することができれば、より良くなると思います。

時間スケールの設定
加えて、本質的ではないかもしれないですが、時間スケールの設定が少し近すぎるかなと思いました。
『Tactical Rising』を例に出すと、都市の変化が年表で書かれていますが、服のレベルのデザインの変化と都市レベルのデザインの変化は時間的なスケールはどうしてもずれてしまうと思います。社会の揺れ動きも含んだ、長いスパンの変化を考えると、主人公が登場するまでの時間は数十年レベルで先の方がリアリティが出ると思います。
『Quarantine Surveillance』も同じくそうで、今の状況が極めて極端化した超監視社会はSFの設定の仕方として良いと思います。これももう少しいくつかの段取りや議論を経て超監視社会が実現すると考えると、例えば50年後に到達する社会状況であれば、50年間に世の中でどのような議論や反発があるかを含めた設定を考えると、この世界での価値軸が見えやすくなると思います。
ややゆったりしたスパンで未来を考えて、社会の価値観がどう変化するのかを考えることで、構造化がしやすくなるのかなと思います。

年表と世界観の制作
僕はテーマから設定します。今回SFマガジンに寄稿した『牛の王』では、「家畜って気になるなあ」という素朴な考えから発展しました。家畜にまつわる色々な言説や文献、社会的な事象をもとに、核となるテーマを設定していきます。それと並行して、「カシミール地方を書きたいな」とか「アメリカの大地を書きたいな」という、自分の描きたいシーンやルックを頭に浮かべます。これらはここで言うピースです。テーマ性とピースの間を往復しつつ、ビジョンをぼやんと考えていき、そこで価値軸や世界の変化が見えてきたときに、年表にまとめていきます。自分が描こうとしている世界まで到達するのにどういう変化があって成り立つのか、できた年表を元に世界観を構築しながら、またテーマに戻ったり、ピースに戻ったりを繰り返して、再帰的にSFの世界を構築していくのです。

質問3:この世界内で登場する人物たちは、どのくらい「都市における戦略と戦術の対比」を描けていると思いますか?
評価:8点/10

戦略と戦術の「対比と補完」
『Quarantine Surveillance』では、古典的な意味での戦術と戦略の対比が描けていると思います。「都市計画や政治の目線で戦略的に市民を見下ろしている社会」と、「戦術的にそれに対抗するレジスタンス」という構図ですね。この対比はわかりやすく出ていると思います。
しかも、このシナリオの主人公は衣服を自作していますよね。衣服を自作することによって、戦略側の支配から脱して戦術側に行くというシナリオは、「自作性」や「資本が作ったものではない自分で制作することの戦術性」が描かれていることは趣旨をわかりやすく表せていると思いました。
やはり、このシナリオの肝は「服を自分で作る」と言うことだと思います。この監視社会とレジスタンスの構図は一般的ですが、そのなかで人間があり合わせのものを使って何を作るかということはデザインの分野でもすごく重要なことですし、そこが一番評価できるポイントですね。
それに対し、1個目のシナリオ『Tactical Rising』ですが、僕は「壁面配達者」と「電気窃盗者」は、シナリオの中では衝突しているけれども、どちらも戦術側の人間だと読み取りました。つまり、彼らは戦術的に、その場しのぎで生きていて、このビルも配達員が登ることを想定して設計しているわけではない。あるシステムによって用意されていないものを、無理やり突破する感じは戦術的な要素の一つだと感じましたし、「壁面配達者」と「電気窃盗者」の両方がシステムをハックして生きているという点で、両方戦術側の人間だと思います。
そして、その構図で言うと戦略側は、このシステムや都市そのものの暴走なんだろうと思います。ただこのシステムが徹底的に破綻した状況において、戦略の不在になった状況で戦術が生きている、という形のシナリオに感じました。
まとめると、『Tactical Rising』では、戦略と戦術という大きな対立図式が、カタストロフを経てどちらも崩れ、その中で戦術を使って戦略が担っていたものの補完をしなければいけない、という『戦略と戦術の補完的関係』の話になっていると思います。
そして『Quarantine Surveillance』では、いかに戦術的に生きていくか、『戦略と戦術の対立を描くHOWの内容』になっていると思います。

質問4:この世界内で登場する人物たちは、どのくらい「都市における戦略と戦術の対比」を描けていると思いますか?
評価:8点/10

現在との連続性の設計
読んだ人にどのような影響を与えうるか、という問いと同義だと思いますが、いまの現実の状況と作品世界の状況の連続性をもうちょっと丁寧に作った方がいいという印象を受けました。
さきほどの年表の話にも通じますが、いまの現実の状況を極端化したものだという設定は作品を読んでいてよく読みとれますが、そこに至るまでの価値観の揺れ動きや、いかなる社会的な価値観のなかでシナリオにある事件がおこっているかという状況のステップがおそろかになっていると思います。
『Tactical Rising』の話だと、原子力発電所の扱いがこの世界でどうなっているのかや、南海トラフがあって原子力発電所の停止によるブラックアウトの果てに、この世界において電力がどのような価値になっているかは、もう少し複雑な気がします。
必ずしも世界同時に大停電が起こらないとすれば、発電機が出てきたり、電力のポートフォリオを踏まえるともう少し電力を描くにおいた話を書く以上は、電力の扱いについてもう少しリアリティがあるとより説得力が出て、鑑賞者も自分ごと化できるのではないかと思います。
加えて、超高層住宅の話題も同じくですが、例えば現在東京に人口が集中しているとはいえ、逆に過密すぎて嫌になった人が地方に流出するという動きもあると思います。インフラがなくても生きていけるようにするテクノロジーも増えている中で、なぜ高密度住宅ができてしまうのか、なぜ住み続けなければいけないのかという現実との連続性がうまく設計されていると、よりなると思いました。
今の我々が生きている世界からどのように遷移して新しい価値観ができていくのか、話の面白さだけでなく、いま生きている人にとってどれだけのいいことがあるのかを位置付けが補うとよいとおもいます。
『Quarantine Surveillance』についても同様で、現在の監視技術や語られることからどうやって発展していって超監視社会になるのかということを、ある程度段階を追って書いていくことが、その連続性の設計において有効なのかなと思います。

質問5:このフィクションを通じて、「自然・生物学的災害と共に生きる生活」をどのくらい想像できましたか?
評価:7点/10

質問6:シナリオを読んで、未来に起こりうるかもしれない災害に対して、どのくらい戦術的に都市を利用したいと思いましたか?
評価:9点/10

以下、質問5と質問6をまとめての講評

プレゼンテーションの形式によって、議論の誘発のされ方が異なるように感じました。つまり、1つのSF短編小説としてこの作品を見たときには、現在との連続性や、現在の時間軸とどういう風にずれたのかのバランス感覚、この世界の価値軸を言葉でちゃんと構造化していく必要があると思います。しかし、デザインフィクションの作品として、服の方をメインでギャラリーで展示されていた際には、その評価基準は異なるような気がしています。

「モノが具体的に目の前にある」ということで起きる説得力によって、このモノが必要とされる世界はどのような状況なのだろうとか、細かい年表は最悪飛ばしたとしても、ビジュアルで見せつけることで鑑賞者が勝手に世界の構造を保管したり考えたりするだろう、とも思います。

実際に災害が起こるとすると、このような服を着て戦術的に生活するようになるのかなあという想像に関しては、服というモノの持つ説得力によって、想像しやすかったと感じました。

デザインフィクションの作品では、実際に制作するモノとシナリオのナラティブがうまく混じりあったようなものになっていると思います。そのナラティブのところはある程度社会的な価値観につながっていて、この部分は綿密な設定が必要だと思います。しかしモノの持っている突破力も同時に存在するのがデザインフィクションを補完する重要な要素だと思います。即物的なレベルであったり、ある種ショッキングなものを実際にモノとして提示することで、SF的な完成度がなくても世界が伝わることは良い点だと思います。

そういう突破力みたいなものが、今回の話だとウイルスであったり、パンデミック、大停電のような災害的な想像力の方に貢献していると思いました。

自分が作りたい変化は、未来の場合はある程度決め打ちで年表を設計するしかないと思いますが、ブラックアウトや超高層住宅の建設を未来のどこかに置くと考えたときに、いまの状況から少なくとも何年くらいかかるな、とか、今の状況からこの世界に風向きが変わるには、どういう出来事が起こらなくてはいけないかという「未来の抵抗力」と考える、というようなプロセスなのかもしれません。

今と同じ状況がずっとつづく「慣性力」があったとして、慣性力に逆らって別の未来を作るというためには、何か外圧が必要だと思います。その外圧が何によるもので、どれくらいのパワーがあるものなのかを設計することが、SFの説得力を増すのに必要だと思います。

なかなか世界は簡単に変わるものではない、という前提に立ち、それが最短で変わっていくのはこうだ、というルートを考えていく、という感じかもしれません。

第6章 展望

6–1. インタビューを踏まえて:未来の「社会」の思索
本研究では、デザインフィクションを通して主人公の生きる世界で必要とされる衣服の設計が達成された一方で、その世界の中で大半の人はどのように生活しているのか、その世界に至るまでにどのような議論がなされたかを踏まえた歴史や社会像の想定に行き届いていない点があった。

今後の研究ではフィクションの設計プロセスを見直し、ワールドビルディングの緻密さを高めていきたい。

6–2. 衣服形状の「かたち」と「かち」の結びつき
本研究では、衣服の特に型紙設計の観点で、素材の特性や培養過程に応じた従来のファッションデザインで用いられる設計手法を用いた。今後の制作では、衣服の持つ「かたち」が持つ「かち」を、1. アルゴリズミックデザインを応用して最適な型紙・形状を解いていくことと、2. 従来のファッションデザインで用いられる手法を応用してアルゴリズムやバイオテクノロジーを使いつつも衣服としての完成度を高めること、の両方の観点から制作していきたいと考えている。

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謝辞

本稿は、筆者が慶應義塾大学環境情報学部に在籍中の研究成果をまとめたものである。

まず、本研究に際し、スペキュラティヴ・ファッションデザイナーであり、会社を共に立ち上げた同僚であり、友人である、川崎和也氏に大きな協力を得たことを深く感謝したい。氏は五年前、根無し草だった筆者を水野大二郎研究室に引き連れ、ファッションとスペキュラティヴデザインの世界に投げ込んでくれた。また平日休日深夜問わず、本研究に際して議論を交わす無償の機会をいただいた。氏の弛まぬ指導と、共に活動した日々がなければ、本研究はとても形を成さなかったことであろう。いつもありがとう。

また同大学環境情報学部准教授松川昌平博士は、水野大二郎研究室が解散して路頭に迷っていた筆者を4年次にも関わらず快く研究室へ受け入れ、ファッションデザインという氏の専門とは異なる分野の研究ながらも、設計プロセス論や建築の観点から、筆者を一年半に渡ってご指導していただいた。深く感謝申し上げたい。

現・京都工芸繊維大学 KYOTO DESIGN LAB特任教授の水野大二郎博士は、当時学部二年の若輩者だった筆者を、約2年間にわたり様々な研究プロジェクトの実践の場で鍛えていただいた。研究室解散に際し、松川博士に筆者を紹介していただいたのも、氏の尽力によるものである。また氏には慶應義塾大学を離れられた後も、京都の方で研究プロジェクトに誘っていただくなど、継続的にご指導いただいていることを深く感謝したい。

石川初先生は、ほとんどアポイントメントなしでドコモハウスへ突撃する筆者をいつも快く迎え入れ、研究に際してアドバイスをしていただいた。また講評会の場では、積極的に筆者の研究に関して議論を誘発し、制作活動を応援していただいた。感謝の意を表したい。

インタビューに快く協力していただいたファッションデザイナーの長見佳祐氏と、SF作家の津久井五月氏に敬意と感謝の意を表したい。普段から作品の制作でご一緒しつつ、「作品制作を誠実にやる」とはどういうことかについて、プロフェッショナルである彼らからいつも間近でその態度を勉強させていただいている。

そして最後に、数少ない同年代の友人である寺内玲氏、松岡大雅氏、村松摩柊氏、花形槙氏、日下真緒氏、西井彩氏。彼らはほとんど大学入学以来からの友人で、制作を共にしながら、日頃から切磋琢磨し合う大切な仲間である。彼らとの議論の中で研究や思考が形作られたところも大きい。いつもありがとう。

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